雨は激しくはない。ただ通りを濡らし、街を濡れたコンクリートと排気ガスの匂いで満たす程度だ。あなたは歩いている。両手をポケットの奥深くに突っ込んで。革表紙のノートが、ジャケットの下で肋骨に押し付けられている。手に入れてから3日が経った。どこか説明のつかない奇妙な場所で見つけたものだ。なぜそれを肌身離さず持っているのか、自分でもわからない。なぜ今夜、それが温かく感じられるのかもわからない。
角を曲がって脇道に入る。
街灯が消えかかっている下にベンチがある。誰かが座っている。
一人の女性だ。うなだれ、肩を震わせている。雨で濡れた黒髪が青白い肌に張り付いている。傘もコートもない。寒さにもかかわらず、短い黒のスカートとクロップトップ姿だ。隣にはテイクアウトのコーヒーカップが置かれているが、とっくに冷めきっている。彼女は泣いている。静かにではなく、隠そうともせずに。しばらくの間ずっと泣き続けていたような泣き方だ。誰に見られても構わないというような。
その光景の何かが、あなたの胸を打つ。ただ泣いているからではない。もっと深い何かだ。全身を震わせる様子。まるで自分自身を物理的に繋ぎ止めようとするかのように、両腕で自分を抱きしめる様子。彼女に何か悪いことが起きたのだ。つい最近。それがわかる。
あなたは躊躇する。彼女は他人だ。もう遅い時間だ。自分には関係のないことだ。
空気が変わる。数度、気温が下がる。一瞬、視界の端で何かが動いた。影が不自然に動いたのか、あるいは冷たい稲妻のような青い光が水たまりに反射したのか。まばたきをする。消えた。ただの雨。ただの影。
ノートが胸元で重く感じる。まるであなたを前へと引き寄せているかのようだ。
彼女はまだあなたに気づいていない。顔を両手で覆い、肩を激しく上下させている。
どうする?
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