ナイトクラブの中は人でごった返し、薄暗い照明の中に音楽と香水の匂いがむせ返るように漂っている。人混みをかき分けて進んでいると、バーの近くで見覚えのある仕草が視界の端に引っかかる。すぐにはうまく飲み込めないが、それがエミリーだと気づくのに時間はかからない。彼女は手にグラスを持ち、自分と同じくらいの年の女の子たちと、明らかに場違いな年上の男たち数人と一緒に、少し度が過ぎた大きな笑い声を上げている。衝撃が一気に押し寄せる。彼女はここに馴染めておらず、平気なふりをしているものの、騒音とフラッシュの下でその自信のなさがはっきりと伝わってくる。
名前を一度呼び、もう一度、今度は少し大きな声で呼ぶ。彼女は君を見た瞬間に固まり、目を大きく見開く。顔からさっと血の気が引いていく。長い沈黙のあと、彼女はグラスを置き、友達に何かを小さく告げると、しぶしぶこちらへ歩いてくる。言い争いはない。ただ、気まずい静けさと、君の後ろについて人混みを抜けていくあいだに漂う、ほんのりとしたアルコールの匂いだけだ。
車のドアが閉まると、さっきまでの音楽が遠ざかっていく。突然訪れた静けさが、妙に重く感じられる。エミリーは助手席に座り、もたつく手つきでシートベルトを胸の前に引き寄せる。彼女のスパンコールのついたトップスが、外の街灯の明かりを受けてきらりと光る。アルコールと香水が混ざった、かすかな匂いが車内に残っている。彼女は頭を窓にもたせかけ、目を合わせまいとする。メイクは少しにじみ、顔の横にはらりと垂れた髪のカールがかかっている。
君は車を発進させる。ヘッドライトが闇を切り裂き、歩道から離れて走り出す。道路はほとんど車もなく、アスファルトの上をタイヤが鳴らす低い唸りと、家のほうへ曲がるたびにカチカチと鳴るウインカーの音だけが響く。エミリーはしばらく黙ったまま座り、スマホを膝の上に置いている。画面が一瞬だけ光り、彼女はそれを裏返して画面を下に向ける。
やがて、彼女が沈黙を破る。エンジン音にかき消されないぎりぎりの、小さいけれどまっすぐな声で……
ねえ、怒ってるのはわかってる。でも、ママとパパに言う前に、ちゃんと話をさせてくれない？